—— 江戸後期、実物大の幟を用意できない家々でも、玩具絵として刷られた木版画を切り抜き、小さな幟(絵のぼり)を自作して節句を祝うできことがました。
これは江戸のペーパークラフトとも言える文化で、遊びと飾りの双方を満たす、庶民の知恵が宿ります。
—— 台紙には鍾馗幟・加藤清正幟・乳・招き・鯉のぼりなどのパーツが一枚刷りで配され、ハサミで切って糊付けすれば卓上サイズの幟が完成。
子どもの遊びでありながら、節句の本義——健やかな成長を願う祈り——を、身近なスケールで体現しました。
—— 本作の歌川芳虎は国芳門の代表格。武者絵や時事画に長け、玩具絵でも力量を示しました。
同門には玩具絵の名手歌川芳藤もおり、版元と連携してシリーズ的に多様な画題を世に送り出しています。
—— 版画による幟意匠は江戸中期の浮世絵師一門・鳥居派にも遡ります。
大型の版木によって紙幟が作られており、そういった作例がのちの玩具絵にも通じるのかもしれません。
芳虎作は、こうした系譜を踏まえつつ、卓上に収まる祝祭の造形として洗練されています。
—— 玩具絵の節句幟は、祈り(節句)・教育(読本や古典知識)・娯楽(遊戯)が交差する江戸後期のペーパークラフト。
紙一枚から立ち上がる幟は、庶民の美意識と工夫を、今日に伝える一次資料です。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」