—— 本作は、絵のぼり本体とともに掲げられた細長い小旗「まねき」です。
屋外に掲揚され、 子どもの健やかな成長・学業成就を願う意図がこめられました。
特注で染められた一枚は、家庭の文化的個性と親の願いを映す人生の祝祭の象徴。
生活の中で機能する実用絵画として、町場の景色を彩ってきました。
—— 画面には三人の子どもが描かれます。
中央は中国風衣装の唐子(からこ)で文具を携え、
上部の子は机で筆を執り、下部の子は積んだ書物に読みふける——。
唐子は当時の吉祥意匠として寺社彫刻や屏風にも広く用いられ、学業成就の願いを強める記号でした。
祝祭と日常、理想と現実が交差する構図は、町人文化の学びを鏡のように映しています。
—— 筒描きは、生地に絞り出した糊で防染し、染料を重ねて白い線を残す技法。
画面の色面配置と構成は事前設計を前提とします。
現在は退色・汚れが見られますが、制作当時はより鮮やかで視認性も高かったはずです。
漫画的な表情や微笑ましい配置、大胆に整理された構図に、職人の意図と工夫が息づいています。
—— 当時の染屋・幟屋には図案帳・雛形があり、発注者が人気画題を選んで注文した可能性があります。
そのため、地域を越えて同系統のモチーフが見つかることがあり、
「共有された民間図像」としての広がりが推測されます。
—— まねきは現在、多くが散逸・退色し、無銘資料となっています。
しかし一点ごとに、家庭の経済力・志向・美意識が凝縮されています。
唐子を中心に据えた構図や学びの祝祭化は、絵のぼり文化の奥行きと民俗的価値を静かに語ります。
私たちはこうした作例を、過去の生活を伝える実用絵画の証言として保存し、学びを「文化の還元」として未来へ手渡したいと考えます。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇 (しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」