本文へスキップ

手描き武者のぼり|いわき絵のぼり吉田 絵師・辰昇

  1. ホーム>
  2. 職人について>
  3. 江戸期の絵のぼり収集記>
  4. 無銘|三番叟図幟

無銘|三番叟図幟(さんばそうずのぼり)
——江戸後期の節句と地域信仰を映す図像

三番叟図幟(江戸後期)アップ いわき絵のぼり吉田蔵

所蔵品「三番叟図幟」について

三番叟図幟(全景)いわき絵のぼり吉田蔵
  • 題名:三番叟図幟 ※非売品
  • 時代:江戸後期
  • 産地:不詳
  • 技法:筒描
  • 素材:木綿
  • 寸法:約370×約68cm
  • 作者:無銘
  • 所蔵:いわき絵のぼり吉田

—— 白く染め残した筒描の輪郭線と大胆な面取りで、能の祝言曲「三番叟」を生気豊かに表現。

正月の印象が強い三番叟ですが、江戸期には端午の節句にも掲げられた吉祥の演目でした。


類似作:メトロポリタン美術館所蔵「三番叟図幟」

三番叟図幟(メトロポリタン美術館蔵)
  • 題名:三番叟図幟
  • 時代:文政10年(1827年)
  • 技法:筒描
  • 素材:木綿・麻(推定)・竹・紙
  • 寸法:約858.5×69.9cm
  • 備考:日本の正八幡宮で使用された祭礼幟
  • Gift of John B. Elliott through the Mercer Trust, 1999 / Object Number: 1999.247.6
→メトロポリタン美術館 出典ページ

—— たいへん興味深い事に、海を隔てたメトロポリタン美術館に、私の所蔵品と同系統の「三番叟図幟」が収蔵されていることに気が付きました。


両作品の比較から見えるもの

三番叟図幟の比較(左:メトロポリタン、右:私的所蔵・色補正)

—— 二作の三番叟は、構図や面の形、配色は同一系統の図像感覚を示しますが、筆勢や密度には差異があります。

これは、神社の祭礼幟(格式志向)と個人宅の節句幟(実用志向)という用途・予算の違いが反映された結果なのかもしれません。

※比較画像では、私的所蔵品(右)の視認性向上のため退色補正を実施。メトロポリタン蔵(左)は無加工です。


一つの推論——神社から氏子へ、図像はどう広がったか

三番叟図幟の上部意匠(メトロポリタン蔵)

—— 正八幡宮で掲げられた三番叟幟が評判となり、節句幟にも同図様を求める動きが生じた——。

上記は一つの推測ですが、初節句を神さまにあやかりたいという気持ちから、このような同系の意匠が地域へと広がったのかもしれません。


江戸時代の絵のぼりにも「流行」があった

三番叟図幟(全体)いわき絵のぼり吉田蔵

—— 図像の一致は地域的な流行の存在を物語ります。

神社中心の地域文化が、やがて個々の節句祝いへ広がる——その過程が、布上の絵に刻まれているのかもしれません。


終わりに——図像解釈に命を吹き込む

三番叟図幟(部分・メトロポリタン蔵)
三番叟図幟(部分・いわき絵のぼり吉田蔵)

—— 保存状態差を踏まえつつ、両作の配色・省略の度合いを読み解くことは、
所蔵元・用途・制作体制を推測する手掛かりとなります。

現代の作り手として、収集と研究を通じ、伝統図像の再発見と再解釈を続けてまいります。

いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)


他の江戸期の絵のぼりは、以下をタップしてご覧ください



  1. ホーム>
  2. 職人について>
  3. 江戸期の絵のぼり収集記>
  4. 無銘|三番叟図幟

バナースペース

見出し記号アイコン SNSでも日々情報を発信しています(X/Instagram)


初節句を彩る「いわき絵のぼり」紹介動画

これまでにお客様から寄せられた貴重なお写真とともに、初節句の勇壮な雰囲気をご紹介しています。

→ 投稿を見る(X)


いわきFC応援幕|鍾馗図原画の制作

いわきFCの巨大な応援幕の原画として、「端午の節句の魔除けの神」鍾馗様を描かせていただきました。

→ 投稿を見る(X)


書籍掲載のご報告|『ときめくニッポン職人図鑑』

全国31人の職人のひとりとして掲載いただきました。

→ 投稿を見る(X)


鎮守氷川神社|クシナダヒメ様奉納画

以前納めさせていただいた「スサノオ様」と一対となる、主祭神「クシナダヒメ様」を描かせていただきました。

→ 投稿を見る(X)


工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):

「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」

→ 投稿元を見る(X)