—— 白く染め残した筒描の輪郭線と大胆な面取りで、能の祝言曲「三番叟」を生気豊かに表現。
正月の印象が強い三番叟ですが、江戸期には端午の節句にも掲げられた吉祥の演目でした。
—— たいへん興味深い事に、海を隔てたメトロポリタン美術館に、私の所蔵品と同系統の「三番叟図幟」が収蔵されていることに気が付きました。
—— 二作の三番叟は、構図や面の形、配色は同一系統の図像感覚を示しますが、筆勢や密度には差異があります。
これは、神社の祭礼幟(格式志向)と個人宅の節句幟(実用志向)という用途・予算の違いが反映された結果なのかもしれません。
※比較画像では、私的所蔵品(右)の視認性向上のため退色補正を実施。メトロポリタン蔵(左)は無加工です。
—— 正八幡宮で掲げられた三番叟幟が評判となり、節句幟にも同図様を求める動きが生じた——。
上記は一つの推測ですが、初節句を神さまにあやかりたいという気持ちから、このような同系の意匠が地域へと広がったのかもしれません。
—— 図像の一致は地域的な流行の存在を物語ります。
神社中心の地域文化が、やがて個々の節句祝いへ広がる——その過程が、布上の絵に刻まれているのかもしれません。
—— 保存状態差を踏まえつつ、両作の配色・省略の度合いを読み解くことは、
所蔵元・用途・制作体制を推測する手掛かりとなります。
現代の作り手として、収集と研究を通じ、伝統図像の再発見と再解釈を続けてまいります。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」