—— 本ページは、「旗=場で機能するメディア」としての本質に注目し、軍旗・祭礼幟・節句幟(絵のぼり)・商業幟の共通性から、人間と旗の関わりを考察します。
—— 旗の役割は、装飾にとどまりません。
風にたなびく動きと高さで目印となり、「場」に意味を与え、集う人々の意識を可視化するメディアです。
戦場では軍勢の識別と士気の象徴として。
祭礼では天に掲げる信仰と願いの表現として。
商業空間では繁盛や誘導の手段として。
旗は暮らしに深く結びついてきました。
・旗指物(はたさしもの)- 歌川貞秀の合戦図より|いわき絵のぼり吉田蔵
—— 日本の戦国時代、旗指物や幟(のぼり)は敵味方の識別と士気の象徴に用いられました。[1]
遠くからでも誰がどこにいるかを示す命のしるしとして、旗は合戦における情報伝達の要でした。
意匠には家紋や軍勢の象徴が描かれ、「ここに我あり」と示す役割を果たします。
・江戸中期の端午節句の様子|いわき絵のぼり吉田蔵
—— 戦の旗は、江戸の平和な社会で祈りの旗へ姿を変えます。
武家の跡取りの成長を願う節句幟(せっくのぼり/絵のぼり)、寺社に掲げる祭礼幟。[2]
前者は家族の祈り、後者は地域と神仏への祈りを象徴します。
江戸時代以降、木綿の安定供給で十メートル級の大幟も可能となり、祈りを布に可視化する文化が庶民に広がりました。
さらに葛飾北斎・歌川広重が、幟に鍾馗や龍を肉筆で描いた例は、絵画と祈りの高度な融合を示します。[3][4]
このように江戸期までの旗や幟は、格式を示すアイテムであり、美術工芸品でした。[5]
やがて、この節句幟の系譜から今日の鯉のぼりが生まれます。[3]
・昭和後期の節句祝いの様子(いわき絵のぼり)
—— 近代以降、旗や幟は商業空間でも広く使われます。
その結果、旗や幟=商業的な装飾品というイメージも定着しました。
店舗前の幟は、商品の魅力や営業中であることを視覚的に伝える誘導メディアです。
現代の商業幟には、視認性・誘導性・ブランド性が求められ、情報設計(UX)の観点からも重要な役割を担います。
—— 旗に絵を描くという行為は、単なる絵画制作ではありません。
そこには願いを形にするという意図があります。
依頼者の思いや場の目的に応じて、色・構図・文様を選び、風に宿る意味を設計します。
絵師として私は、旗に絵を描く文化を「場に機能する祈りの象徴」として捉え、伝統的な技法と現代の場を融合させながら、その力を最大限に引き出すことを目指しています。
—— 旗は、時代や用途を超えて「場に意味を与えるメディア」として存在してきました。
戦・祭・商、それぞれの場において、旗は人々の願いや記憶を風に乗せて伝えてきたのです。
これからも、絵師としての視点から、旗の持つ象徴性と美しさを発信していきます。
絵師・辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」