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手描き武者のぼり|いわき絵のぼり吉田 絵師・辰昇

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旗とのぼりの文化的背景
—— 旗や幟(のぼり)は「場を伝えるメディア」

—— このページでは、旗や幟が単なる飾りではなく、「場の意味を伝えるメディア」としてどのように使われてきたかを紹介します。

軍旗、祭りの幟、節句の絵のぼり、商業用の幟など、さまざまな場面で使われてきた旗の共通点を通して、人と旗の関係を考えてみましょう。

旗の基本的な特徴

  • なぜ布なのか? → 風にたなびき、遠くからでも目立つから
  • なぜ高く掲げるのか? → 見分けやすく、権威や存在感を示すため
  • なぜ絵や文字を描くのか? → 意味や願いを伝えるため

旗の歴史(ざっくり年表)

・古代=目印として布を使う
・中世=合戦で敵味方を見分ける旗指物(はたさしもの)[1]
・近世=節句や祭りで願いを込めた幟を掲げる[2]
・近代=国旗の制度化
・現代=商業用の幟や応援旗として活用

端午の節句の幟旗(絵のぼり)(祈りの可視化)

旗とは何か?

—— 旗は、ただの装飾ではありません。

風に揺れる動きや高さによって人の目を引き、そこに集まる人々の思いや目的を「見える形」にする役割を持っています。

  • 戦場では、軍の識別や士気を高めるために使われました
  • 祭りでは、神様への願いや信仰を空に掲げる手段でした
  • 商業では、お店の存在や商品の魅力を伝えるツールになりました
▶ 一言で言えば:旗は「場の意味を見える形にするメディア」です。

戦の旗:存在の証(あかし)

戦国時代の旗指物

・旗指物(はたさしもの)- 歌川貞秀の合戦図より|いわき絵のぼり吉田蔵


—— 戦国時代には、旗指物や幟といった旗が、戦場で使われました。[1]

誰がどこにいるかを遠くからでも見分けられるように、家紋や軍の印を描いた旗が掲げられました。
「ここに我あり」と示す役割を果たしていたのです。

▶ 一言で言えば:旗は戦場での「情報伝達装置」であり、存在のあかしでした。

祈りの旗:願いを空に届ける

端午節句襖図下絵(無銘)

・江戸中期の端午節句の様子|いわき絵のぼり吉田蔵


—— 江戸時代になると、戦の旗は平和な社会の中で「祈りの旗」へと変化します。

  • 節句幟(絵のぼり)子どもの成長を願う家族の祈り
  • 祭礼幟:地域や神仏への祈りを込めて寺社に掲げる
木綿の普及により、大きな幟が庶民にも広まりました。

節句幟(絵のぼり)には、葛飾北斎や歌川広重などの絵師が、幟に鍾馗(しょうき)や武者絵を描いた例もあり、絵と祈りが融合した美術品としての価値もありました。[3][4]

このように江戸期までの旗や幟は、格式を示すアイテムでした。[5]

やがて、この節句幟の系譜から今日の鯉のぼりが生まれます。[3]

昭和後期、いわき絵のぼりが飾られた様子

・昭和後期の節句祝いの様子(いわき絵のぼり)

▶ 一言で言えば:幟は「祈りを形にした布」であり、家族や地域の願いを空に届ける道具でした。

現代とのギャップ:幟=広告布の印象?

—— 今では、街角で見かける幟は宣伝用のものが多く、工業的な製造方法で大量生産されています。

そのため「幟=広告布」というイメージが強くなっています。

しかし、江戸時代の幟は、祈りや格式を表す大切な道具でした。
絵師が手描きし、上質な布に願いを込めて作られていたのです。[2][4][5]

▶ 一言で言えば:幟は本来、格式ある祈りの道具。現代の印象だけで判断すると、その歴史が見えてきません。

商いの旗:人を呼び込むメディア

—— 近代以降、旗や幟は商業の場でも広く使われるようになりました。

お店の前に立てる幟は、営業中であることや商品の魅力を伝える「視覚的な案内板」のような役割を果たします。

現代では、幟のデザインにも「見やすさ」「誘導力」「ブランド性」が求められ、情報設計(UX)の観点からも重要なツールとなっています。

▶ 一言で言えば:幟は「人を導くメディア」。祈りから誘導へと役割が広がりました。

時代ごとの旗の役割まとめ

戦の旗(旗指物/幟)
目的:識別・士気 / 象徴:家紋・主君
時代:戦国時代以前
価値:命のしるし(極限下での情報伝達)
祈りの旗(節句幟・祭礼幟)
目的:奉納・成長祈願 / 図像:鍾馗・龍 ほか
時代:江戸初期以降
価値:家族と地域の祈り(ハレの特別誂え)
商いの旗(商業幟)
目的:誘導・告知
時代:明治期以降
価値:場の力を高める(量産〜オーダー)

伝統絵師の制作理念:願いを形にする

いわき絵のぼりの制作工程:材料準備から彩色・仕立てまでの流れ
・絵師による筆と刷毛の伝統工法

—— 旗に絵を描くことは、ただの絵画制作ではありません。
そこには「願いを形にする」という意味があります。

依頼者の思いや目的に合わせて、色や構図、文様を選び、視認性よく意味が伝わるように設計します。

私は伝統絵画の絵師として、旗を「場に機能する祈りの象徴」と捉え、伝統技法と現代の感性を融合させながら、その力を最大限に引き出すことを目指しています。

▶ 一言で言えば:旗の制作は「願いのデザイン」。図像・色・構図で意味を設計します。

よくある質問(FAQ)

Q. 旗と幟は同じものですか?
A. 似ていますが、使われる場面や目的が少し異なります。幟は縦長で、祭りや節句などに使われることが多いです。
Q. いつ頃「絵」が主役になりましたか?
A. 江戸時代から、絵師が幟に祈りを込めて絵を描く文化が広まりました。
Q. 鯉のぼりは幟と関係がありますか?
A. はい。節句幟の文化から発展し、子どもの成長を願う鯉のぼりが生まれました。

おわりに:旗の文化を未来へ

—— 旗は、戦い・祭り・商いなど、さまざまな場面で「人の願い」や「場の意味」を伝えてきました。

現代の商業幟だけを見てしまうと、その深い歴史や文化的な背景を見落としてしまいます。

江戸時代の幟が持っていた格式や祈りの厚みを、今こそ見直し、次の世代へと伝えていきたいと思います。

絵師・辰昇(しんしょう)



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