—— 絵師・辰昇(しんしょう)は、先祖伝来の技法と下絵を礎に、
江戸絵師の筆づかい・構図に学びながら、一枚一枚に最良の表現を追求しています。
その筆致は、節目を彩る旗印として、日々の暮らしに静かに寄り添います。
以下に、素材の準備から仕立てまでの工程をご紹介します。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇
—— 絵を描きはじめる前に、木綿生地に下処理を施します。
まず洗濯と糊付けを行い、自然乾燥させます。
ここからいわき絵のぼりが完成するまでには、一作品にかかりきりで一週間以上を要します。
—— いわき絵のぼりに用いる絵具の「顔料」は粉末状で、それ自体には接着力がありません。
呉汁(大豆の汁)で溶くことで、木綿生地に定着させます。
—— 下絵の上に木綿生地を重ね、うっすらと透けて見える線を頼りに、薄墨などで下描きをします。
※新しい図柄の場合は、まず下絵を制作します。
小さなスケッチを何枚も描いて図柄を検討し、最終的に等倍サイズの下絵を用意ます。
—— ここからは、いわき絵のぼりを描く生地を「宙吊り」にして作業を行います。
使用する主な道具は「張木」と「伸子(しんし)」です。
—— 生地の表裏の両面に、全体にわたって下染めを行います。 使用する色の数だけ、刷り込み刷毛を用意します。
※一本の刷毛で複数の色を使いまわすのはNG。
色が濁ってしまいます。
—— 下染めの直後に上染めを施す箇所もあれば、下染めが乾いてから上染めを行う箇所もあり、表現の意図によってさまざまです。
たとえば、朱色の上に濃い紅色を重ねてぼかしたり、黄土色の上に薄い朱をのせて陰影をつけるなど、多様な工夫が凝らされます。
—— 絵柄の顔や衣服などの輪郭線を仕上げていきます。
肌の部分には繊細な細い線を、衣服には強弱をつけた大胆な線を用います。
この線描によって、絵全体の勢いや表情が決まります。
—— 衣服の模様や鎧の細部などの、装飾的な部分を描き込みます。
その後、全体のバランスを確認しながら最終調整を行います。
最後に、色落ちを防ぐため、全体に呉汁を塗布して乾燥させます。
—— いわき絵のぼりの上部に入る「家紋」は、失敗の許されない重要な部分のため、手際よく、しかし慎重に描き入れます。
—— 縫製作業を経て、いわき絵のぼりがようやく完成です。
—— いわき絵のぼり制作に欠かせないのが、職人たちが使用する道具です。
これらの道具は、数世代にわたって受け継がれてきたものや、特別に手作りされたものも多く、
その工夫と機能性が、いわき絵のぼりの魅力を引き立てています。
この段落では、絵のぼり制作に使用される代表的な道具をご紹介します。
—— 刷り込み刷毛、ボタン刷毛、漆刷毛、連筆、面相筆など、 描写する部位や色によって使い分けます。
——
これらの顔料は、
—— 初代や先代が遺したものから、当代による新しいデザインまで、いわき絵のぼりの制作にはさまざまな下絵を使用します。
—— 張木とは、生地の両端に取り付け、いわき絵のぼりを宙吊りにするために使用する角材状の道具です。
これは代々自作して用意しています。
—— 絵を描きやすくするため、生地をピンと張る器具です。
両端の先端には針が付いており、かつては竹製でしたが、現在ではグラスファイバー製のものもあります。
—— いわき絵のぼりは、ただの装飾ではなく、
筆の軌跡に祈りや記憶が宿る、心に寄り添う存在です。
このページでは制作の過程をご紹介しましたが、
絵の具の重なりや布の表情に刻まれた時間は、
実物をご覧いただくことで、より深く伝わります。
「価値あるものを贈りたい」「節目を心に残したい」
そんな想いを持つ方にこそ、手にとって感じていただきたい文化です。
動画「いわき絵のぼりの道具と描き方」(約18秒)
動画「昇り龍制作工程」(約30秒)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」