絵のぼりは旗指物を源流として江戸時代に発展しました。
その担い手は、御用絵師・浮世絵師など、多様な制作実態があります。
現在は、辰昇(いわき絵のぼり吉田)が古作研究に基づき制作中です。
—— 端午の節句に掲げられる絵のぼりは、武家の旗印に端を発し、江戸の町で花開いた「人生儀礼を彩る絵画」です。
本ページでは、誰が・どのように絵のぼりを制作してきたのかを、時代の流れと作例の系譜から俯瞰します。
個別の事例は 「江戸期の絵のぼり収集記」にまとめており、このページでは“通史的に”全体像を紹介しています。
—— 戦場で掲げられた旗指物(はたさしもの)には、家紋や守護像など、それぞれ思い入れの深いデザインが描かれました。
なかでも鍾馗(しょうき)は、魔除けの象徴として本多忠勝や前田利家に好まれました。
こうした“魔を祓う図像”は、やがて端午の節句に家を守る旗として転用され、定着していきます。
※ 桃山期の鍾馗図幟の作例として、「絹地著色鍾馗図幟」が国指定重要文化財に列されており、武家文化と節句幟との近縁性を物語っています。
まとめ:
戦国時代の旗指物には、魔除けの神「鍾馗」が描かれた。
これが、節句の絵のぼりへと受け継がれた。
次章: 江戸の多様な作り手へ。 ▶ 次章へ
—— 江戸時代には、浮世絵師・御用絵師・町絵師・染師、さらには在野の職人まで——幟絵は多様な作り手によって描かれていました。
地域では町絵師や染物屋(紺屋)が祭礼や節句の需要を支え、都市部では浮世絵師たちも注文に応じて制作していたのです。
したがって、「絵のぼり=地方の粗野な民画」という現代的な思い込みは、実態とはかけ離れています。
浮世絵師・御用絵師の関与:
絵のぼりの実作や記録が確認されている名としては、葛飾北斎(ボストン美術館に肉筆絵のぼりが現存)、歌川国芳(一門に絵のぼりの作例や木版画も)、河鍋暁斎(ウィーン万博に大幟を出品)、歌川広重(旅日記に制作記述)、英一蝶(初期の紙幟作例)などが挙げられます。
江戸の浮世絵師・歌川国芳の弟子「芳輝」による手描きの絵のぼり。
▶ 詳細を見る御徒士町狩野家の表絵師・狩野玉円 永信が描いた室内用の絵のぼり。江戸後期。
▶ 詳細を見るまとめ: 江戸中後期の絵のぼりは、多様な担い手によって制作された。
次章: 広重「旅日記」に見る制作実態。 ▶ 次章へ
—— 天保12年(1841)、歌川広重は甲府滞在中に幕絵とともに、大小さまざまな幟を受注・制作しました。
記録には、・諸葛孔明図幟・鍾馗図幟・唐木綿の小鍾馗図幟などが挙げられており、
サイズ・素材・予算に応じた多様な注文の実態が読み取れます。[1]
とりわけ唐木綿(幅広の高級輸入木綿)は、格式を示す素材として著名絵師や高位の注文に選ばれやすく、
一方で、巾の狭い木綿を縫い合わせた普及タイプも多数を占めていたと考えられます。
まとめ: 広重はさまざまなサイズ・素材の絵のぼりを受注制作。
天保12年(1841)当時の多様性が分かる。
次章: 形式と技法へ。 ▶ 次章へ
江戸時代に裕福な家で飾られた、贅を尽くした染色画。
▶ 詳細を見る千成瓢箪が示す武将像と、明治~大正期の分業が生んだ筆致のコントラスト。
▶ 詳細を見る浮世絵師による、江戸時代のペーパークラフト絵のぼり。
▶ 詳細を見るまとめ: 江戸期以降、さまざまな形式と技法があり、階層や用途によって使い分けられた。
次章: 鯉のぼりとの関係 ▶ 次章へ
—— 鯉のぼりは江戸中〜後期、絵のぼり(招き・吹流し等)の付属からはじまり、やがて独立したとみる見解が一般的です。
ただし当時の格式の中心は絵のぼり(幟)にあり、鯉は後発の町人風俗として広がりました。
▶ 鯉のぼりの起源・詳説はこちら
※ 江戸当時は儀礼の主役=幟。鯉は付属→独立へ(地域差あり)。
—— 武者絵のぼり=家の威信を掲げるハレの実用絵画/鯉のぼり=町人風俗として独立。
まとめ: 江戸中期に、鯉のぼりは絵のぼりから派生(通説)。明治以降に多色化へ。
次章: 江戸時代の作家 ▶ 次章へ
ボストン美術館蔵/北斎の幟絵をご紹介。
▶ 詳細を見る三代目堤等琳という町絵師を中心とした「堤派」。江戸~明治の作。
▶ 詳細を見る江戸後期の祝祭芸能としての神話図像。名人・須藤晏斎の筆。
▶ 詳細を見るまとめ: 江戸時代には、当時を代表する人気絵師も絵のぼりを手掛けた。
次章: 伝統の継承観 ▶ 次章へ
—— 伝統とは家系の継承ではなく、過去の文脈を読み取り、現在に訳す営みです。
古作の図様・筆致・材料・寸法感を読み解き、依頼者の意図と現代の生活に寄り添いながら、「今」のかたちで応えることが核となります。
—— 量産プリントと本手描きは見た目が似ていても、性質と価値が根本的に異なります。
後者は制作者の研鑽が一枚ごとに蓄積され、歴史の文脈を伴なった技術として継承されます。
観点 | 本手描き(伝統工芸) | 量産プリント製品 |
---|---|---|
制作 | 顔料・墨・膠で筆致を重ねる。 | インクの転写再現。 |
一点性 | 一作一会。 | 同データの複製。 |
意匠の根拠 | 古作研究・地域様式・儀礼の文脈。 | イラスト・販促都合。 |
修復・経年 | 補彩・加筆等が可能。 | 劣化時は交換が前提。 |
文化的評価 | 技術・担い手は無形文化財等の対象。 | 量産は継承対象外が一般的。 |
誂え(オーダー) | 家紋・寸法・設置環境を対話し最適化。 | 型番から選択。 |
——
代々の筆法をもとに、江戸の筆致・構図・配色を古作から学び取り、いまへ還元する。
「いわき絵のぼり吉田」では、屋外/室内の本手描き武者絵のぼりを一枚ずつ誂え、暮らしの儀礼に寄り添う制作を心がけております。
歴史理解と検証に基づき、過去の継承ではなく、現在形の祭礼絵画としての更新を目指しています。
まとめ: 絵師・辰昇は古作研究をおこないながら、現代の旗印を描いている。
江戸の空を舞った肉筆絵のぼり。絵師の視点で厳選した古作をご紹介。
▶ 詳細を見る旗指物から節句幟、そして鯉のぼりへ——図像の流れを概説。
▶ 詳しく読む350年以上続く地域の技と意匠。現在の工房へ連なる道筋。
▶ 詳しく読む江戸期の幟旗を網羅的に紹介。巻末で当工房を“全国一”と評する記述あり。
▶ 詳細を見る現代の制作家として、いわき絵のぼりが吉田が紹介。
▶ 詳しく読む日本初の絵のぼり専門書。北村勝史氏の25年にわたる収集品から62点を掲載。
▶ 詳しく読む社寺祭礼に用いられた文字幟の専門資料。幟文化全体を知る上で欠かせない一冊。
▶ 詳しく読む※ 一部はサイト内検索(例:「甲州日記」「nobori」「Shoki banner」等)で該当ページに到達できます。
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」