—— 神功皇后は、八幡神として崇敬される応神天皇の生母。
親子の健やかさ、安産、武運長久の象徴として、端午の節句に最も親しまれた画題のひとつでした。
本作は、染物職人(紺屋)による豪華な筒描きの幟。町や村の家々が祈りをかたちにした、生活の美術です。
—— 筒描きは、輪郭線を白く残しながら染め分ける染色技法。
大画面を設計→防染→染色→水洗と段階的に仕上げるため手間と熟練を要し、
現在の感覚で換算すると、時間と費用のかかった「友禅的な大画面表現」と言えます。
そのため、当時本作を飾ったのは、武家・商家・豪農など、家格と余裕のある家だったと推測されます。
—— 応神天皇(八幡信仰)との結びつきから、神功皇后図は江戸期の節句幟で広く選ばれました。
家の願いを背に空へ翻る――その実用と信仰の交差が、画題の強さを今に伝えます。
—— 本作には、藍の退色や後年の手補筆が確認できます。
とりわけ黒の加筆に拙い箇所も見られますが、幟が長く飾られ、祈りに用いられた痕跡として尊重したい要素です。
生活の現場をくぐり抜けた古作ならではの記憶が、画面に滲んでいます。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」