—— 本作は、歌川国芳の門人・歌川芳輝による肉筆の幟旗です。
江戸の町人文化と節句の祈りが重なり合う場面に、浮世絵師が関わっていたことを物語ります。
—— この幟は、たんなる「古びた旗」として骨董市場に出回っていました。
入手後に署名を確認すると「芳輝」の名があり、専門家の検証も経て江戸期浮世絵師による真作と認められました。
関心を持たれることの少なかった絵のぼりですが、ここには文化の地層として重要な価値が潜んでいます。
—— 使用されているのは「唐木綿」(とうもめん/からもめん)と呼ばれる幅広の輸入木綿。
当時は高級素材として扱われ、名のある絵師が手掛ける幟旗に選ばれました。
広重の日記や他流派の作品にもその使用例が確認でき、節句幟が江戸文化に深く浸透していたことを示しています。
—— 芳輝(1809–1880頃)は谷文晁の門を経て国芳の弟子となった人物です。
力強い筆線は、浮世絵師としての技法を幟旗に応用した痕跡です。
落款印に型紙を用いているなど、幟絵を複数手掛けた可能性を示唆する要素もあり、町場の祭礼文化と絵師の営みが重なります。
—— 師・国芳自身も肉筆の幟を残しており、一門全体がこの制作に関わっていました。
幟旗は単なる装飾ではなく、生活と祈りを映す「生きた美術」でした。
いま再発見されるそれらは、過去を学び未来へ還元する文化の証言といえます。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」