—— 本作は、絹地に墨で描かれた鍾馗(しょうき)像の幟です。
鍾馗は 疫病除け・学業成就の守護として広く信じられ、端午の節句や町場の祈りの場で掲げられました。
本作は江戸時代の神社で用いられていたとも伝え聞きます。
署名はなく作者不詳ですが、生活の中で機能する「実用絵画」として用いられた幟ならではの、
端正すぎない筆致の中に、手向けの心と祈りの熱が息づいています。
いわゆる名工の作だけでなく、地域の人々が自ら描いた例も少なくありません。
素朴であっても、 見飽きない魅力があるのは、暮らしと信仰に密着した用の美の現れと言えるでしょう。
—— 江戸期の絵のぼりには、外国風のスタンプが押された個体が稀に見られます。
これは、近代以降に古布として再流通した際の管理印・仕分け印と考えられ、 時に布地として転用され市場に出た痕跡でもあります。
優れた幟にも押印例が確認され、 その過程で多くの作例が散逸した可能性も否定できません。
だからこそ、こうした素朴な一幅にも、暮らしの手触りと
地域信仰の記憶が確かに宿ります。
過去の生活の証言として適切に保存し、「文化の還元」——学びを未来へ返す営みにつなげていきたいと考えています。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇 (しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」