—— 男児の誕生を神に知らせ、健やかな成長を願って掲げられた節句幟。
本作は染師の筒描きによる武者絵・熊谷直実で、庭先に高く翻ることを前提に設計された一旒です。
—— 見開いた眼や誇張された身振りには、歌舞伎と結びつきの強い鳥居派系の画風が想起されます。
当時広く親しまれた浮世絵版画を図様の見本として参照し、幟の縦長画面に最適化している点が注目されます。
—— 筒描きは、防染糊で輪郭線を引き、染まらない「白」を線として残す染色法。
太い白線で色面を分ける作例が多いなか、本作はきわめて細い白線で面を切り、のびやかな余白感と軽やかさを獲得しています。
経年でパステルトーン気味に退色した色調が魅力です。
—— 幟の年代判別では、手織幅の生地を二枚つなぎにした中央縫いの有無や素材の目付け、染料の風合いが手がかりになります。
とくに明治〜大正以前は着物幅(30数cm)基準の生地が一般的で、幟幅を得るためにつないで用いる例が多く見られます。
本作も素材・技法・図様の総合から、江戸後期〜明治初期の仕事と位置づけられます。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」