—— 清忠は、歌舞伎座の看板絵を代々担ってきた鳥居派の正統に連なる絵師。
本作の鍾馗は、近代の画家である清忠があえて古典の画風に寄せ、格式と親しみを併せ持つ表情で描かれています。
—— 俗に「瓢箪足・蚯蚓描き」と呼ばれる輪郭線や筆の揺らぎが、古典の風格を生みます。
舞台絵の伝統に通じる“見せ場”の設計があり、遠目にも効く大胆な造形と、室内で親しむ穏やかな表情づくりが同居しています。
—— 縮緬地に描かれた小型の節句幟は、江戸中期頃から定着した室内飾りの系譜にあります。
小さな画面ゆえに、画家への特注や上質な素材選びが行われることも多く、本作もその系譜に連なる一点です。
—— 付属する家紋幟は正絹製で、鍾馗幟とは素材が異なります。
画家仕事としての本体に合わせ、販売店や顧客側が別誂えした可能性が高いと考えています。
—— 近代の絵師が家伝の古典筆法を意識的にすくい上げ、室内飾りという生活文化に落とし込んだ好例。
鳥居派の舞台性と、座敷幟の親密さが響き合う一幅です。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」