—— 一見素朴ながら、画面には確かな気迫と祈りが宿ります。
大正期の家庭が、初節句に寄せた家の誇りと男子の理想像が、桃太郎像に重ねて描かれています。
—— 「應需(依頼による制作)」と年月日、さらに花押まで記すのは節句幟(絵のぼり)では稀。
宗興は専門絵師とは断じ難い筆致ながら、署名・構図への意識から素性ある描き手だった可能性が覗きます。
—— 正面を見据える眼差し、刻まれた眉間、丁寧な武具表現。
童話的可愛らしさよりも武家の威風が強く、当時の家庭が願った男子の理想像が反映されています。
—— 武人のように前を射る犬、鋭い眼で睨む猿、素早く舞い降りる雉。
擬人化を思わせる筆致は、技術以上に込められた心が画面に立ち上がる好例です。
—— 明治維新から半世紀、旧家にはなお家名と格式の誇りが息づいていました。
幟は武家儀礼に起源を持つ「家の理想」の象徴。
宗興の記した花押や構図意識は、
依頼家の由緒や願いを背負った制作だったことを想像させます。
—— 絵のぼりは布であると同時に、その時代を生きた誰かの心の痕跡です。
署名と花押が残した手掛かりから、宗興という個人の気配が今日へと繋がっています。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇(しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」