図版はタップ・クリックで拡大できます。掲載写真は、制作途中の原画と、その原画を用いた御朱印です。
1|諏訪八幡神社とのご縁
―― 諏訪八幡神社は、私の住む地域の氏神神社です。御朱印原画の制作につながる最初のご縁は、2019年に制作した滝尻棒ささらの奉納旗でした。
滝尻棒ささらは、地元・滝尻地区に伝わる伝統芸能で、諏訪八幡神社でも奉納されています。奉納旗の武者絵を私が描き、数年後にその図像が御朱印へと展開されました。
祭礼の場に掲げる大きな旗から、参拝する方の手元に残る御朱印へ。同じ題材の絵でも、使われる大きさや場に合わせて、その表現は変わります。
2|御朱印に用いる原画の制作
―― 私は、江戸時代から端午の節句に掲げられてきた、福島県いわき市の伝統工芸「いわき絵のぼり」を、現在も木綿に手描きで制作しています。御朱印の原画でも、古典的な線の運びや色彩の感覚を大切にしています。
また、神社名の筆文字や朱印、日付との収まりも意識しています。
御朱印のための絵では、線の細かさや余白、文字と重なる部分などを意識します。滝尻棒ささらでは、奉納旗の図像をもとに、御朱印用に線画から描き直しました。
御朱印によって制作の関わり方は様々です。干支や祭礼などの原画を私が制作し、文字や朱印、季節の装飾を含む御朱印全体の構成は、神社側でまとめているものもあります。
毎年の制作を続けやすいよう、図柄ごとに異なる形式を考えてきました。また、参拝する方に御朱印を選ぶ楽しさを感じていただけるよう工夫を重ねる中で、次第に現在のシリーズ構成へと発展してきました。
3|正月|干支と社殿を描く見開き
―― 正月の見開き御朱印では、日本の古典絵画に通じる趣を大切にしながら、新春の晴れやかさが感じられる絵を心がけています。
午年は、「大きな飛躍」を表現するために、社殿と初日の出をやや大胆な配置に。そして馬には、八幡神社の神馬のイメージを重ねています。前へ飛び出すような動きと大きな輪郭には、普段描いている絵のぼりに通じる力強い筆遣いで描きました。
辰年は、龍と社殿・初日の出を、「神威を表す情景」として表しました。諏訪八幡神社の社殿天井には、大平華泉氏による龍の絵が描かれています。私はその龍が社殿を守っているようなイメージを重ね、干支の龍であると同時に、「この神社の龍神信仰」を思い浮かべて描きました。
4|正月|干支を題材にした片面図案
―― 正月の御朱印では、干支の動物が持つ縁起のよさや、楽しさを感じてもらえるよう、年ごとに異なる発想を取り入れています。
辰年の龍では、通常は龍が手にする「如意宝珠」を、龍そのものの姿として表しました。身体を円形にまとめ、御朱印の円形の朱印とも呼応する図案にしています。
卯年の「波兎」、巳年の「白蛇」、午年の「馬九いく」も、このシリーズの作例です。それぞれの干支を題材に、文字や朱印と組み合わせた際の収まりも意識して原画を描いています。
5|正月|神紋を組み込んだ干支シルエット
―― 毎年変わる干支の御朱印にも、諏訪八幡神社ならではの変わらない象徴を取り入れています。干支のシルエットの中に、諏訪神社・八幡神社の二つの神紋を組み込みました。
シリーズ最初の干支は、卯年でした。干支と神紋の配置を一つの図案にまとめる形式が、その後の辰・巳・午へと続いています。
6|正月|縁起物を組み込んだ干支シルエット
―― 干支と縁起物を組み合わせ、初詣らしい遊び心が感じられる御朱印の図柄を考えています。
巳年は蛇と破魔矢を組み合わせました。片面の限られたスペースでも華やかさが伝わるように心掛けています。
卯年は「うさぎと亀」、辰年は「打ち出の小槌」、午年は「瓢箪から駒」。干支と縁起物を組み合わせ、その年の図案を考えています。
7|春・秋の例大祭
―― 春・秋の例大祭の御朱印では、神社の由緒や、この土地に受け継がれてきた歴史を感じられる絵を心がけています。春は諏訪神社、秋は八幡神社の例大祭。それぞれにゆかりのある題材を選んでいます。
春季例大祭では、神社が平安時代に建てられた場所に残る亀石や、境内の狛犬を描きました。亀石は、神社の由緒のさらに奥にある、土地の長い時間を感じさせる題材として捉えています。狛犬も、実際に境内にある特徴的な姿をもとに描いています。
秋季例大祭では、現在も境内で大切に受け継がれている流鏑馬を題材にしています。その姿に、八幡神社を象徴する鳩のシルエットを組み合わせた図案として表しました。
8|夏詣|滝尻棒ささら「熱・涼」
―― 地元で受け継がれる滝尻棒ささらの勇壮な姿を、夏詣の御朱印でも伝えたいと考えています。令和4年の「熱・涼」は、その出発点となった作例です。
人物の背景にある円は、満月です。棒ささらの祭礼が中秋の名月に近い時期に行われることを意識したもので、奉納旗から夏詣の御朱印へと受け継いでいます。
年ごとに描かれた棒ささらの姿をご覧いただけるよう、令和4年から令和7年までの8点を掲載しています。
9|夏詣|見開き御朱印
―― 夏詣の見開き御朱印では、滝尻棒ささらの演武の躍動感や迫力が伝わる絵を心がけています。令和6年は、実際の奉納演武をもとに、武者絵として描きました。
背景には、祭礼の季節を思わせる満月を置き、麻の葉文様を重ねています。満月の円と規則的な文様を背景に、棒の向きや人物の動きが際立つように考えました。
令和4年から令和7年の見開きを並べると、同じ地域芸能を題材にしながら、演武や構成が変わっていく様子も分かります。
10|月替わり御朱印|干支原画の季節展開
―― 月替わり御朱印では、同じ干支の絵が、季節の移り変わりとともに異なる趣を見せます。
私は干支原画を担当し、神社では季節の花や行事の意匠、文字や朱印などを組み合わせて、月ごとの御朱印に仕上げています。
卯年は、その変化をご覧いただけるよう、季節の異なる3点を掲載しています。辰・巳・午年の図柄も、それぞれの季節の御朱印として展開されています。
11|継続する中で生まれた広がり
―― 諏訪八幡神社にゆかりのある図柄を描き続ける中で、御朱印の原画が、別の形でも生かされるようになりました。
これまでに描いてきた神馬、神紋、亀石、流鏑馬、滝尻棒ささらなどは、いずれも神社の由緒や境内、地域の祭礼につながる題材です。それぞれの背景を大切にしながら、絵として表現してきました。
こうして描かれた原画には、御朱印以外の用途に広がりが生まれるものもあります。
12|まとめ|御朱印という媒体に合わせて描く
―― 御朱印の原画では、神社の由緒や祭礼、地域の文化とのつながりが、図柄から自然に感じられることを大切にしています。
そのうえで、絵のぼりや奉納画で培った表現を、文字や朱印、余白との関係を考えながら、御朱印に合わせて描いています。
神社に受け継がれてきた由緒や信仰を大切にしながら、現代の人々にも親しんでいただける絵を描いていきたいと考えています。
制作|辰昇(絵のぼり絵師)
福島県いわき市
神社・祭礼に関わる原画制作のご相談
御朱印原画、奉納画、祭礼で用いる旗や幕など、神社・地域文化に関わる図像制作のご相談を承っています。
題材や用途、実際に使われる場を伺いながら、手描き原画として制作します。
既存の作品や当サイト内の作例で、イメージに近いものがありましたら、あわせてお知らせください。方向性を共有する際の参考になります。