1|旧家に伝わる江戸期の節句幟
―― 2006年5月から6月にかけて、秋田の旧家より、家に伝わる絵のぼりの新調をご依頼いただきました。
もとの幟は、江戸時代に制作されたと伝わる巨大な麻布製の節句幟です。
長年にわたり実際に掲げられてきたため傷みが進んでいましたが、布地には年月を経た深い味わいが残っていました。
私にとって、ここまで古い絵のぼりを間近で拝見するのは初めての機会でした。
筆致や構図には、浮世絵師が関わった可能性も感じられ、江戸期の節句幟文化を伝える貴重な意匠でした。
図柄は、三国志に登場する武将・
敵地に乗り込み、主君・
江戸時代には、中国の物語や英雄譚が浮世絵や絵のぼりの題材として親しまれました。
勇壮な武者の姿を描いたこの趙雲図も、五月節句の幟として、家の誇りや願いを表す一枚だったのだと思います。
2|趙雲図を写し取る
―― 再制作にあたり、まず古い幟の線描を和紙に写し取り、下絵を制作しました。
単に形をなぞるのではなく、筆の運びや線の強弱、古作に残る勢いを読み取りながら、できるだけ正確に写し取っていきます。
長く使われてきた幟には、当時の絵師の筆致だけでなく、その家で大切に掲げられてきた時間も宿っています。
その気配を損なわないよう、慎重に下絵を整えました。
3|木綿地へ描き起こす
―― 下絵をもとに、布地へ線を描き写し、薄い色で下染めを行います。
通常の絵のぼりでは、
今回は大幅の幟であったため、床に広げて制作しました。
表と裏の両面に絵を描くため、布地の扱い、色の入り方、線の重なりにも注意しながら進めています。
4|受け継がれる幟として新調
―― 配色や細かな表現については、お客様と相談しながら制作しました。
「年月を経た雰囲気を残したい」というご希望がありましたので、全体に薄く黄土を引き、古作の趣を感じられる仕上がりを目指しました。
古い幟をただ新しくするのではなく、その家に伝わってきた記憶を受け継ぎ、再び節句の場に立てられる一枚として描き起こすことを意識しています。
仕上がるまでは苦労もありましたが、お客様にお喜びいただけて一安心でした。
HPへの掲載についても、「のぼりが喜ぶでしょう」と快くご承諾いただきました。
貴重な古作に向き合い、江戸期の絵のぼり文化を現代の手描き制作へつなぐ機会をいただいたことに、深く感謝しております。
制作|辰昇(絵のぼり絵師)
福島県いわき市
忘れられた旗の美──江戸期の絵のぼり研究記録
祈りと線の記憶を辿る研究記録。
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いわき絵のぼり歴史と特徴
350年にわたり受け継がれる絵のぼり文化。
藩主の推奨とともに育まれた祈りの旗印。
手描きと量産の違い
手描きの絵のぼりと
と量産の違いを簡潔に解説。
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