—— ここでご紹介するのは、明治〜大正時代頃に制作されたと見られる武者絵のぼり(幟)〈秀吉図〉です。
馬印として知られる千成瓢箪(せんなりひょうたん)が掲げられ、豊臣秀吉(羽柴秀吉)を示す典型の意匠が確認できます。
切画師・風祭竜二先生のコレクションとして伝来し、資料として当方に譲られました。
—— 明治〜大正期には、手描き武者幟の制作が各地に見られました。
なかでも佐野(現・栃木県佐野市)は、当時の一大産地として知られ、本作もその系譜に連なる可能性が高いと考えます。
—— 面相には胡粉の剥落が見られますが、筆置き・ぼかしの妙味は健在です。
瓢箪の馬印は秀吉の武運長久を象徴し、端午の祝いにふさわしい「吉祥」の物語を掲げます。
当時の職人・絵師たちは、地域の美意識と祝祭の機運を背景に、こうした英雄譚を幟へ移し替えました。
—— 本作は分業で制作された可能性が考えられます。
たとえば、背景や馬体・甲冑は太く大胆な筆線で素早くまとめ、面相などの要所は繊細な筆運びで仕上げる、といった役割分担です。
離れて見た際に映える単純化と省略、近接で惹き込む精緻——両義の筆致が一枚の幟の中で呼応し、祝祭空間にふさわしい視覚効果を生んでいます。
—— 本作品は、明治〜大正期の制作、佐野周辺の制作圏に属すると推測されます。
当時の地域職人の手仕事や分業体制の実相を伝える一次資料でもあります。
今後の比較研究によって、各地の画風・系譜がより明確になることを期待しています。
いわき絵のぼり吉田・絵師 辰昇 (しんしょう)
工房をご見学いただいた方の投稿より(@irodori_koinbr 様):
「絵幟の歴史を堪能出来る空間でした。鍾馗幟旗は生で見ると迫力がヤバかったです。生で見なきゃもったいないです!」